視点・焦点・論点

第6号 令和元(2019)年6月18日

阪神・淡路大震災-兵庫県東浦町(現:淡路市)での復興の取組み

阪神・淡路大震災では、淡路島の東浦町(現:淡路市)の震災復興にかかわらせて頂きました。これまで営まれてきた漁村の既存コミュニティを重視した計画と、国土交通省と農林水産省の省庁間を越えた連携による復興事業が実現しました。

東浦町(現:淡路市)復興事業で取り組んできたこと

 

(1)復興基本構想について

〇復興にあたっては、被害を受けた家屋等の復旧だけにとどまらず、将来を見通したまちづくりの大方針をまず定める必要から、東浦町総合計画後期基本計画を受け、地区整備コンセプトとして以下の2つを設定しました。

― 地区整備コンセプト ―

●愛着ある住みつづけられるまちづくり

●安全性と利便性のある潤いあるまちづくり

 

〇そしてこの地区整備コンセプトを踏まえて、将来の土地利用の方向を「復興基本構想図」として示し、行政及び住民等があらかじめ互いにまちの将来像を共有しました。この構想をめざして官民協働で、復旧・復興に取り組んでいきました。

 

▼復興基本構想図



(2)道路計画について
〇道路計画は、国道28号と海岸沿い計画道路を骨格道路として位置付け、この間を繋ぐはしご状(ラザー)道路(主要区画道路,幅員6m)を現道拡幅又は新設によって整備することとしました。
〇漁村であることから既存道路は、1.8m以下の狭幅員なものが多い上、無接道宅地も相当あることを踏まえ、区画道路の幅員は、大幅員の拡幅(6m以上)は難しいため基本的に4mで計画しました。
〇道路整備の円滑化を図るため、できる限り既存道路の拡幅と、住宅が滅失してしまっていて道路用地の確保が容易可能なところでの配置としました。(道路の計画密度には配慮)

 

▼将来道路網形成の方針



(3)コミュニティ住宅等の建設について
〇コミュニティ住宅の建設は、漁村集落としての隣り近所の人々の日常つながりを尊重し、既存自治会のまとまりを基本に9ヶ所に分散させ、かつ2~15戸の小規模で建設しました。
〇コミュニティ住宅は、高齢者居住への配慮や地域景観に馴染むように要綱緩和の上、木造の1階又は2階建てにしました。また、淡路島特産の淡路瓦で屋根を葺きました。
〇集会所等も高齢者等が歩いてすぐにアクセスできるよう、コミュニティ住宅に隣接して分散配置しました。

 

▼完成したコミュニティ住宅

 

▼完成した集会所



4)柔軟な手法適用と柔軟な事業化について
〇被害は仮屋地区全域に亘ったことから、事業地区の範囲は約37haと広大になりましたが、復興が緊急性を持っているため全域を第Ⅰ期事業地区として一発設定しました。
〇都市計画事業ではなく「密集事業」と「漁集事業」という要網事業を採用し、柔軟な対応ができるようにしました(強制力はありませんが、その分、実現化には町職員が頑張りました)
〇いずれの地区も被災によって同程度の事業の緊急度があることから、用地買収や事業化の見込みの立ったところから順次工事着手を行うという柔軟性のある事業展開を行いました。(できるところから事業化するが最後には最初の計画が完成するという考え方)
〇このため、整備計画の変更を1996年2月1日及び同年11月18日の2回実施しました。

(5)省間を越えた合併施行について
〇仮屋地区はそもそも漁村集落を中心とした地区であることから、地区中央の仮屋漁港に面した南北約750m、面積約10haの地区については漁集事業と密集事業の合併施行で行いました。その他の地区については密集事業によりました。
〇それぞれの事業の事業概要及び合併施行区域における両事業の役割分担は下表の通りです。
〇このように地区の特性を踏まえて、2つの事業手法の役割分担を明確にしながら国土交通省と農林水産省の省間を越えた合併施行によって復興が比較的迅速に事業化されました。

 

▼合併施行の役割分担



(6)コミュニティ重視型の復興計画について
〇地区内には16のコミュニティ単位(自治会)があり、この既存のコミュニティをなるべく壊さないことを条件に、事業計画をたてました。
〇具体的にはコミュニティ住宅や集会所・公園・緑地・広場等はなるべく16のコミュニティ単位毎に分散的に整備し、可能な限り既存のコミュニティ内に被災者がとどまれる計画としました。

(7)環境共生の復興事業について
〇小型雨水貯留槽を設置し、雨水利用の計画としました。
〇「フラワータウン東浦」の町の計画を受けて、花壇設置による環境緑地化と当番制管理によるつながる地域づくり、コミュニティづくりをめざしました。(コミュニティを動かすしかけづくり、しくみづくり)
〇住宅は、地場産業(瓦産業)の復興をめざし淡路瓦で屋根を葺く仕様としました。

 

▼住宅・まちづくりの仕掛け



(8)用地買収条件の緩和について
〇制度の運用緩和によって用地の一筆買収を行い、道路や住宅の整備残地を「ふれあい広場」として緑地化しました。(あとあと地域の人々のたまり場となった)

 

▼ふれあい広場の計画


▼完成したふれあい広場

 

事業は以上の通りですが、全体を通しての当該特徴としては以下の7つを挙げることができます。

 

Ⅰ.復興後の集落の姿(復興基本構想図)を最初に住民に示し、計画先行で事業化するのではなく、地権者合意など条件が整ったところから事業化していった。


Ⅰ.道路計画は技術者が描く理想的な計画というより、現状を重視した既存道路の「拡幅整備」を基本に策定し、事業の実現性・迅速性を高めた。

Ⅰ.コミュニティ住宅はRC造ではなく木造で、かつ平屋又は2階建とし、かつ淡路瓦を使って地域の集落景観になじみ、かつ高齢者が住みやすい住宅とした。

Ⅰ.事業手法としては「区画整理」のような法に基づいた固い手法ではなく、「密集事業」(国交省)、「漁集事業」(農林省)という柔らかい要綱事業によって、柔軟な事業として推進した。(両省が連携した合併施行)

Ⅰ.復興住宅・集会所、公園は集約して建設するのではなく、16ある既存のコミュニティ単位で建設し、これまで隣り近所のつながりを重視した

Ⅰ.道路用地買収にあたっては、一筆買収についても国の承認を受け、道路残地は「ふれあい広場」として整備し、復興後の地域の人々のコミュニティスペースとして確保した。

Ⅰ.小型雨水貯留機設置や「フラワータウン東浦」にちなんで花壇設置(管理には当番制導入)によってコミュニティを恒久的に動かすしかけづくりを行った