視点・焦点・論点

第5号 令和元(2019)年6月3日

大都市問題・列島強靭化、国土防災・危機管理と国土軸形成

※本稿は平成26(2014)年2月の日本技術士会近畿本部建設部会での発表論文です。

はじめに
 本稿では、我が国を取り巻く現下の大都市問題、列島強靭化、国土防災、危機管理等の対応課題に対して、国土形成、国土軸形成のあり方という視点から、筆者の「考え、思いの要点」を整理したものであり、その内容は定性的な論述の枠を超えるものではないことを予め、お断りする。


1 提案の背景
 我が国の国土構造のあり方については、戦後、国連調査団によって発表されたワイズマン報告を始発とする第2国土軸構想がある。それは、太平洋ベルト地帯(西日本国土軸=第1国土軸)に連続して西に伸びる高規格の道路、鉄道を骨格とする都市軸の形成を提案したものである。
 その後、国土軸の概念は「21 世紀の国土のグランドデザイン-地域の自立の促進と美しい国土の創造(五全総)」(H10~H27)において、4つの国土軸からなる多軸型の国土構造への転換として閣議決定(平成10 年3月31 日)され、現在に至っている(次図参照)。

▼国土軸のイメージ図

出典:「新しい全国総合開発計画ハンドブック」(国土庁計画・調整局監修)

ひるがえって、我が国の現状をみると、
◎阪神・淡路大震災、東日本大震災をはじめとした度重なる自然災害、そして近い将来発生するであろう南海トラフ巨大地震等の防災・減災対策・東京を頂点とする人口や諸都市中枢機能の一極集中現象によって発生している弊害の回避
◎グローバル化する世界の中で、国際競争力と活力ある我が国の経済社会の再構築
◎危険度・緊張度を増す周辺諸国との国際環境の中で、我が国の危機管理体制の強化
◎人口減少や高齢化の進展問題をも飲み込んだ安全で安心な魅力ある国民生活環境づくり
等への対応がクローズアップされている。
 他方、我が国の国土構造の形成に係る大きな出来事として、リニア中央新幹線が実現の運びとなり、2027 年には東京~名古屋間、2045 年には東京~大阪間で開通することが決まったことである。
 このリニア中央新幹線が実現の運びとなった今、改めて、上記の諸問題を国土軸形成という視点から再考してみる。


2 提案内容のイメージ
 リニア中央新幹線完成後の強靭な国土構造と都市中枢・中核機能を適切に配置した新しい国土軸の形成イメージを示したものが以下である(下図参照)。
 図からも分かるように、首都及び副首都、太平洋ベルト軸及び(仮)中央国土軸からなる2極2軸を持ち、そして、これらを1 つのスーパー都市圏として大都市活動が展開される(仮)東海道スーパーメガロポリス構築の提案である。

▼2極2軸ラザー構造の国土形成イメージ図(中佐著作)

以下では、もう少し詳しくそのイメージを述べる。

 

(1)東京に一極集中する高次都市機能の分散
 首都機能をはじめとする高次都市機能の東京一極集中は、集積のメリットを享受している反面、国土の危機管理や防災対応上のリスクも内包している(東京こけたら日本がこけるリスク)。
 リニア中央新幹線(時速約500km/時。東京-名古屋間40 分、東京-大阪67 分)は、交通の時間距離を大幅短縮するため、日常日帰り生活圏の中に名古屋や大阪を含むことが可能になり、東京に過度に集中している諸中枢機能を他の大都市圏に分散することが容易となる(次図参照)。

▼リニア中央新幹線路線概要図

出典:「リニアが日本を改造する本当の理由」市川 宏雄著


(2)関西での副首都建設
 昭和52 年の第3次全国総合開発計画に首都機能移転が重要課題として位置づけられて以来、その議論は長く続いている(下図参照)。

▼候補地選定のための調査対象地域

出典:「21 世紀の国土のグランドデザイン」国土庁計画・調整局監修

 一方、現状を直視した時、依然として東京への人口や高次都市機能の集中は継続しており、これらの趨勢からみて、その機能を他の地域に移すことは容易でないことは明白である。
 そこで、東京に首都機能や主要な首都機能を残しながら、リニア中央新幹線の活用等によって、その一部を新都市に移す一方、東京の高次都市機能が円滑かつ効率的に発揮できるように都市空間の修繕、更新を図ることが考えられる。
 その受け皿となるのが、歴史的・地理的・経済社会的にみても、関西圏(大阪、京都、神戸)が最も有力といえ、副首都としての機能整備も相対的に容易である。
 また、この圏域は既述のワイズマン報告に提唱されているように、更に西に向かって、四国、九州へと延伸する太平洋新国土軸(第2国土軸-近畿~瀬戸内~九州)形成によって、飛躍的に地域のポテンシャルが上昇し、北九州を拠点とする東南アジア地域との経済交流の活発化が期待される。
 これによって、東京圏が世界の中心都市の1つとして発展する一方、関西圏と北九州が一体となって、東南アジアと深い交流を持つ中心都市圏として発展することが期待される。

▼太平洋新国土軸

出典:太平洋新国土軸構想(第二国土軸構想)一般財団法人 国際ハイウェイ財団

(3)(仮)中央都市軸上での新しい時代のモデル拠点都市整備
 既述のように、リニア中央新幹線建設にあたっては品川駅(東京都)、名古屋駅(愛知県)を除いて、2027 年の開業時には4つの駅が整備される予定である。また、2045 年の大阪までの開業時には、さらに数駅が整備される予定である。
 これらの駅は、のどかな山間部の風景と緑の中に整備されることになるが、駅を拠点とする地域整備にあたっては、我が国及び世界のモデルとなる新都市建設が求められる。また、その際、東京からの移転してくる都市機能も考慮して建設する必要がある。
 具体的には、自然共生・環境共生をテーマとした都市、文化・芸術・学術をテーマにした都市、政治・経済・生産をテーマにした都市などが考えられる。

 ここで、新都市建設上で最も注意して置かなければならないことは、人を引きつける魅力や人がどうしてもそこに行かなければならない仕掛けを用意することである。リニア中央新幹線を使えば、確かに時間距離は短縮されるが、そのような仕掛け、魅力がないと、逆に人・ものが地域を素通りしてしまい東京や名古屋に集中(これをストロー現象という)、場合によっては地域が衰退する場合もある。

(4)太平洋ベルト軸上の諸都市のリノベーション
 太平洋ベルト軸上の既存の諸都市は、これまでの我が国の発展を支えてきた都市はあるが、その多くは都心部における経済・産業活動の活性化、居住機能の回復、老朽木造密集市街地の解消、都市の防災性の向上、都市景観・アメニティの配慮といったまちづくり上の諸課題を抱えている。

 これらの課題は、長年にわたる都市活動の中で集積してきたものである。その対応としては、太平洋ベルト軸と(仮)中央国土軸を継ぐラザー(はしごの足掛け)サブ軸上に乗せ、住工商機能を分散・分離させることによって、地方中核都市の再整備を促す必要がある。

3 「大都市問題・列島強靭化」の視点から
 東京圏への首都機能を含む高次的都市機能の集積は、既述のように一方では集積のメリットがあるが、他方、大都市問題の発生や脆弱な国土形成にもつながっている現状がある。
 首都を東京に置きながら、一極集中の是正を推進するという視点に立った時、リニア中央新幹線の活用がクローズアップされてくる。リニア中央新幹線の時間距離のメリットを活用して、省庁の一部を東京圏外に移すということは、少ないデメリットと多くのメリットがある(西欧諸国はこの考え方は受け入れやすいが、日本人は国民性として、思考も動きも1つに集中する傾向があることは否めないが)。
 もう1つ、2020 年の東京オリンピックの開催は、東京の大都市空間を改造し、更新する一大チャンスでもある。「人類の発展と調和」をテーマとした前回(1964 年)のオリンピックとは異なる「自然・環境・ゆとり・うるおい・活力・おもてなし・日本文化・日本の都市空間」等を世界に示す魅力ある大都市東京のリノベーションが求められる。
 一方、関西に副首都機能を移し、国土構造を双眼構造に改造することによって、都市中枢機能のバックアップ体制を構築する。また、関西は、太平洋新国土軸(第2国土軸)によって北九州と結ばれ、東南アジア地域のゲートウェイとしてのポテンシャルも飛躍的向上することが期待される(下図参照)。

 さらに、航空・空港についても、関東の成田及び羽田空港、関西の関西及び神戸空港という2つの空の拠点が位置づけられ、互いに連携し、バックアップ体制を取ることにより、双眼的な機能が発揮できる。

▼双眼型国土構造

出典:「すばるプラン-新しい近畿の創生をめざして」(すばる推進委員会)

4 「国土防災・危機管理」の視点
 「強くしなやかな国民生活の実現を図るための防災・減災等に資する国土強靭化基本法」に基づいて策定された『国土強靭化政策大綱』(平成25 年12 月)の基本は「起こってはならない事態」を防ぐ為の計画づくりである。
 本稿で提案する関連方策は、以下の通りである。

◎首都直下型地震による首都機能のダメージや富士山噴火による国土交通インフラの分断等に対する対策、バックアップ機能(代替機能)の整備は、国土の中央部に第2軸を持つことによって可能となる。
◎危機管理面からは国際テロや防衛上も、一極集中は危険度が大きく、2極構造によってリスク分散を図っておく必要がある(1つのことに集中するのは日本人の良い面でもあるが、危険な面でもある)。
◎太平洋ベルト軸上の諸都市は、地方拠点として市街地再開発、密集市街地の再整備を行う。
◎太平洋ベルト軸上の諸都市のリニューアルに際しては、はしご状の交通インフラを使って、都市施設・都市機能を計画的に再配置する。 ◎既存の老朽インフラについては、新しい技術(太陽光などの自然エネルギーやエコ技術など)を導入して、時代を先取りした再整備内容とする。


おわりに
 リニア中央新幹線の建設や2020 年東京オリンピックの開催は、単に交通網の整備や世界イベントの開催だけに終わることなく、我が国・日本の22 世紀を見通した複層的な計画となることを切に望みます。

参考資料
◎第4次全国総合開発計画(国土庁計画・調整局四全総研究会)昭和62 年12 月[時事通信社]
◎新しい全国総合開発計画ハンドブック(国土庁計画・調整局)平成10 年7月・すばるプラン(新近畿創生構造委員会)昭和63 年6月[ぎょうせい]
◎国土強靭化政策大綱(国土強靭化推進本部)平成25年12 月
◎太平洋新国土軸構想(第2国土軸構想)(一般財団法人国際ハイウェイ財団)
◎リニアが日本を改造する本当の理由(市川 宏雄)平成25 年6月[メディアファクトリー新書]